女性は妊娠、出産を経て心と身体に様々な変化が起こります。そして出産という大役を遂げたママの身体は大きなダメージを受けているにも関わらず、完全に体調が戻る前に、赤ちゃんのお世話や家事をこなす日々がやってくる。

 

赤ちゃんが産まれて幸せいっぱいなはずなのに、思い通りにいかないことばかりでイライラしたり、自己嫌悪になったり、不安な気持ちになってしまうことも。どうしてこんな気持ちになるのか、この状況は自分だけなのか、楽にする方法はあるのか。そこで産後の体調不良と身体の関係について、身体を診る専門家にお話を伺いました。

 

前回のおはなし vol.2 【専門家監修】正しい産後ダイエットの方法。1日1分、ながらでできる骨盤運動で腰痛も改善!

 

 

 

阿久戸 和也さん

 

街の整骨院『和(なごみ)』院長。国家資格柔道整復師。2012年4月に街の整骨院『和』を開業、2017年6月有限会社OLUPONOの取締役就任、2017年10月にはLife Nの技術指導責任者就任を兼任。

一般の方の治療から高齢者のリハビリ、ミュージシャンのアリーナツアー帯同サポートや舞台アーティストのサポートまで幅広く活動。専門的な知識はもちろんのこと、一児の父親であることから経験に基づいた家族に寄り添った視点で分析、解説する。

 

 

 

 

産後のイライラや無意欲は、

ホルモンの影響。

 

「赤ちゃんを育てるため」の変化を

受け入れてあげる

 

 

 

 

mamioh編集部:

 

「赤ちゃんが生まれることは、とっても嬉しいこと。周りの人たちからも祝福され、幸せいっぱいな出来事です。

 

一方で、ママは産後の体調不良で悩む人も多いと聞きました。後陣痛や悪露、乳腺炎、腰痛や貧血などの肉体的な悩みや、イライラや不安感などの心の悩み。

 

最近では『産後うつ』や出産後に急激に夫への愛情が冷めてしまう『産後クライシス(※1)』も話題になっています。ママの身体にはいったいどんなことが起きているのでしょうか?」

 

 

(※1)産後クライシス(さんごくらいしす)とは、産後急激に夫婦仲が悪くなる現象のことで、「育児ノイローゼ」や「産後ブルー」の結果、夫婦仲や社会関係にまで悪影響を及ぼすとして、NHKが「産後クライシス」を提唱しました。

出典:離婚弁護士ナビ

 

 

 

阿久戸先生

 

「妊娠をすると、プロラクチンとプロゲステロンという2つのホルモンの分泌が盛んになります。

 

プロラクチンは乳腺の発達を促し、プロゲステロンは妊娠中に母乳が出ることを抑える作用があり、徐々に母乳を作る準備を始めるのです。

 

しかし増加したプロゲステロン(黄体ホルモン)は、さまざまな不調の原因ともなっており、イライラや憂鬱、だるさ、頭痛、胸の張りなどの症状を引き起こします。

 

 

 

 

 

赤ちゃんが生まれると、大量に分泌されていたプロゲステロンは減少し、かわって母乳を作り出すプロラクチンというホルモンの分泌が増えていきます。このように妊娠から出産にかけての女性の身体というのは、ホルモンの分泌が急激に増減しており、バランスが乱れるのです。

 

また、プロラクチンを分泌するためにはドーパミン(※2)の生成を抑える必要があります。赤ちゃんに栄養を与える授乳のために、『ドーパミンの生成を抑え、プロラクチンを分泌し、母乳が出る』ということが成立しているのです。

 

 

 

 

一方で、ドーパミンが少なくなると何が起きるかというと、意欲がなくなります。イライラしたり、無意欲になる。症状が重い人もいれば軽い人もいるけれど、それは少なからず、すべてのママさんたちに影響が出ている話です。

 

(※2)ドーパミンとは、喜びや快楽を司るホルモン。夢中になったり感動しているときなどに、快楽物質であるドーパミンが分泌される。学習や運動機能、性機能、向上心などに関係し、達成感による快楽を得ることで、さらなる意欲をもたらす。逆にドーパミンが低下すると、物事への関心が低下する。

出典毎日新聞医療プレミア

 

 

 

mamioh編集部:

 

「ママさんたちは、育児中にイライラしてしまったり、何もやる気が起きなくたってしまうことに対し『自分だけがそうなんじゃないか』『自分がダメな母親なんじゃないか』と悩んでしまう人も多いのが現状ですよね。」

 

 

阿久戸先生

 

「イライラしたり、そわそわした感覚、何もやる気が起きない、というのは多少なりとも産後は誰にでもあることです。

 

赤ちゃんを育てるために自分の身体が変化して、影響が出てしまっているということを受け入れてあげることで自然と身体は楽になります。」

 

 

 

 

 

 

ママは24時間ずっと

赤ちゃん主体の生活。

 

自分の欲さえも抑えて過ごしている

 

 

 

mamioh編集部:

 

「昔から『産後、床上げ(※3)するまでの1ヶ月は安静に過ごしたほうがいい』と言われてきました。

 

しかし現代では核家族化が進み、里帰りができない人は頼る人もなく、産後すぐに動かなくてはいけなかったり、お母さんひとりで赤ちゃんのお世話をしなくてはいけない人も増えています。ひとりで育児という大きな責任を抱え込むことが産後うつの要因とも言われていますね。」

 

(※3)床上げとは、出産で疲れ切った母体をしっかり休めるために、お布団は引きっぱなしにして、授乳と自分の食事・手洗い以外は横になって体力の回復につとめることの意味。

 

 

 

阿久戸先生: 

 

「産後に現れる様々な不調が重なり、心と体の変化にうまく対応できなくなることが産後うつの要因にもなっていると思います。ただ大前提として、身体の変化や体型の変化、少なからずの変化は出るものです。

 

うつになってしまう一番の原因というのは、おそらく『欲がなくなる』こと。先ほどのドーパミンの話に戻るのですが、ドーパミンが減少すると欲がなくなっていきます。要は、学習能力や集中力、やる気、意欲、欲というものがなくなるのです。

 

 

 

 

ママさんの生活に当てはめてみると、子育てをしてる間ずっと、自分が24時間の中で主体的になれる瞬間が1分もないんですよ。赤ちゃんが泣いていたら起きなきゃいけない、赤ちゃんが泣いたらおっぱいをあげなきゃいけない、お風呂に入るときも寝るときも赤ちゃんが常に主体の中の生活。最低1年、長い人は2〜3年ゆっくり眠ることもできない生活が続きます。

 

そうすると、自分の欲さえも抑えて過ごしていかなくてはいけないんです。そうなるとだんだん無意欲になって、うつの要素としてはなりやすい傾向にあると考えられます。」

 

 

 

mamioh編集部:

 

「育児中のママさんは、自分のしたいことさえもできない状況になるんですね。今、阿久戸さん自身も0歳のお子さんがいらっしゃるとのことですが、身近にいる奥様の状態はいかかでしたか?」

 

 

阿久戸先生: 

 

「僕の妻を見ていても産後は、欲というのはなくなっていたように思います。今思えば『こうしたい』という感情を言わなくなっていたような気がします。

 

最近は、産後半年ほど経って、体型も戻ってきたのもあってか、欲がだんだん出てきたように感じますね。例えば『次の週末は、ここでご飯が食べたい』とか『こうしたい』と言うようになってきたので、これこそが健康のサインと言えます。

 

 

 

 

 

結構、日本って『ストレスはカットしたい』『欲は出すとダメ』みたいな習慣がありますよね。僕はそれは少し間違っていると思っています。どういうことかというと、ストレスは少なからずはあっていいと思っていて、そのストレスという刺激に対して対応し、順応していくことによって、身体がバランスをとって安定する。

 

そもそもストレスを全て日常生活から除去することは出来ないですよね。だったら受け入れてあげることも時には大事。欲は逆に、人間の機能として多少はないといけないもの。だから、24時間のうちに1分でも自分が主体的になれる瞬間がある人っていうのは、身体の調和がとれて安定もしていくし、健康に近づけます。

 

 

 

 

 

1日1分でもママが主体の時間を

作ってあげる。

 

それだけで頑張れる

 

 

 

 

mamioh編集部:

 

「赤ちゃんが生まれる前の自分主体の生活から一変して、1日中赤ちゃん主体の生活というのは、身体も心も変化に追いつくだけでもいっぱいいっぱいになりそうです。」

 

 

阿久戸先生: 

 

「だからこそ周りにいるサポートの人は、1日1分でもママが主体の時間を作ってあげることが大切です。例えば、奥さんがゆっくりお風呂の時間を過ごせるように旦那さんが赤ちゃんの面倒を見てあげる。そして『ゆっくり入って来なよ』の一言でもカラダは自然と休まるわけです。

 

奥さんの気持ちに気づいてあげたり、寄り添ってうまくフォローすることで、奥さん自身も気持ちをうまく安定できるようになってくる。『産後や育児中は、イライラしてしまうのは多少はしょうがない』ということを分かった上で接すると、関係性も良好になって、夫婦で育児を楽しめるようになっていけると思います。

 

でも、あまり意図的にやりすぎるのもよくないですね。『休みなよ、休みなよ』って言われてもそういうものでもないし、あまりに言われすぎるとうざいですよね(笑)肝心なことはサポートしていこうという気持ちをどうやって伝えるか。

 

基本的に子供って母親を本能的に欲しているし、子育ての中心はやっぱり母親だなって思っています。悔しいけど(笑)ただ、その中で育児でも家事でもいいので僕に出来ることはもちろんやってあげる。そして奥さんが辛くなったときの逃げ道を余裕をもって作ってあげることが大事だと思っています。」

 

 

mamioh編集部:

 

「父親として母親の育児負担を減らす努力をしながら、旦那様としてしっかり奥様のサポートをする関係性は理想的な形ですね。」

 

 

 

阿久戸先生:   

 

「よく『ストレス発散で運動したらいい』と言われたりしますが、子育て中のママさんにそんな時間はそもそもないし、そんな時間がとれていたら、そもそもこんなことにはならない。

 

僕が実践している妻へのサポートを具体的にいうと、少し美味しい菓子パンを買うとか、ちょっと贅沢していつもの倍のものを買う、甘いスイーツを買ってみる。そのレベルなんだけど、そのレベルの逃げ道でもたぶんいい欲なんじゃないかなと思っています。

 

それはもう人によってですが、高級レストランでしか満足できない人もいれば、日常がマンネリ化した人からしたらコンビニで買える高級アイスでもいいし、なんでもいいと思うんですよ。慣れない育児で辛いのはみんな一緒だし、そこは受け入れてしまったほうが気持ちは楽になれる。

 

育児のストレスをなくすっていうのは、到底無理な話ですし、夜泣きをなくすことも無理な話。赤ちゃんはそういうものだし、辛いのもみんなも一緒。うちの子はちょっと夜泣きが激しいっていうのも受け入れちゃった方がいいんです。だからその中で自分の逃げ道をどこに作っていくのかは人それぞれにあるけれども、甘えてもいい部分は甘えちゃうのも時として大事。

 

 

 

 

パパとして、旦那として、

できることをやる。

 

そして、奥さんの逃げ道をつくってあげる

 

 

 

mamioh編集部:

 

「24時間365日休みがないのが子育て。最近では、家事・育児・仕事などすべてを一人でこなさなげればならない『ワンオペ育児』が問題視されています。世の中のパパさん、旦那さんへのアドバイスをお願いします。」

 

阿久戸先生: 

 

「僕も月曜日〜金曜日は仕事で、朝も早いし帰りも遅い。どうしても家事や育児を妻に任せきりにしてしまうことも多いです。それでも妻は、平日朝5時には起きて、洗濯して、掃除してってやっている姿を見るとまずは敬意を払うということが大事だと思っています。そしてパパとして、旦那として、できることはもちろんするようにする。

 

例えば、ゴミ捨てと毎日の風呂掃除、土日の配管掃除は僕の仕事。あとは、妻に対してお風呂の時間をしっかりとらせてあげることだったり、夜中に何度も何度も赤ちゃんが起きるから、その一回だけ変わって僕が深夜2時間あやすとか、なにげないことです。でも、たった2時間でも旦那に任せられることで、妻はなにも考えずに休まるから、その2時間で安眠できて、めちゃくちゃ元気になるんですよ。それがあるだけで、ちょっとだけ余裕が生まれるから、また1日頑張れるんです。

 

後は何かやってあげることよりもむしろ、気付いてあげることが大切です。例えば、『昨日ずっと夜泣きしてて、大変だったでしょ?』って朝イチで言えば、奥さんも『そう大変だったの!』ってなりますよね。そういう声がけが意外と大事だったりするんです。こうして夫婦で役割分担をして、サイクルがうまくいくとお互いがだんだん順応してくるので、妻としても余裕が出てきて活力が湧いてきます。さらに、体型も元に戻れば、自分にも自信が持てるようになり、心にも余裕と健康が戻ってきます。

 

 

mamioh編集部:

 

「ママも頑張りすぎない、ということですね。」

 

 

阿久戸先生: 

 

「そう、頑張りすぎない。ただ大前提として、子供にとってお母さんの存在は一番大事だから頑張るところはしっかり頑張ってあげてほしいです。でも自分の身体が壊れちゃったら子育てができないので、『頑張るけど頑張りすぎない』という矛盾をどうやって埋めるかという作業は、夫婦での助け合いではないでしょうか。」

 

 

 

 

これまでの連載

 

vol.1 【産後ダイエット】骨盤の歪みの本当の意味とは?(前編)

vol.2 【産後ダイエット】11分トレーニングで無理なく痩せる方法(後編)