子育ては一筋縄ではいかないもの。感情に任せて怒ることはせず、子供の好奇心を大切にしながら、おおらかな気持ちで子供の成長を見守る…頭では子育ての理想論をわかっているつもりでも、毎日の生活の中でそれを実現できている方は、果たしてどのくらいいるでしょうか。

 

「パパは脳研究者」は、タイトルの通り、脳研究者であり東京大学薬学部教授の池谷裕二さんが、ご自身の娘さんの成長を脳研究者の目線で綴った育児日記です。赤ちゃんの悩ましい行動(なんでも口に入れる、イヤイヤ期、ウソをつくなど)について、脳の発育という視線から客観的に理解できる点で、育児書と言っても良いのではないでしょうか。一般的な育児書は教科書のようで苦手という方でも、この本なら読みやすいと思います。私も育児書はほとんど持っていませんが、この本は子育てに悩むたびに何度も読み返している大切な一冊になっています。

 

クレヨンハウスからこちらの本が出版されたのは2017年ですが、今年(2020年)新書版のための追記が加えられ、新書化しました。(扶桑社新書)

 

 

衝撃的な実験結果を知ると、面倒でも「ここが踏ん張りどころ」と思える

 

「パパは脳研究者」では、池谷さんの育児日記とともに、これまで世界中で行われてきた乳児の発達に関するさまざまな研究を紹介するコラムが掲載されています。中には動物を使ったぎょっとするような実験や、はるか昔に行われた(今思えば)非人道的とも言えるような実験もあります。そういった衝撃的な実験結果に基づいた育児理論にはぐうの音も出ません。

 

例えば、「パパは脳研究者」の44ページに紹介されているのが、13世紀、神聖ローマ帝国のフリードリッヒ2世が行った次のような実験です。

 

「皇帝は身寄りのない赤ちゃんを集め、侍女に育てさせました。彼の興味は「言語の起源」でした。―――ヒトは言葉を習わなくても話すようになるのでしょうか。

侍女たちは母乳やオムツや入浴などの最低限の世話は許されましたが、赤ちゃんに話しかけることは禁じられました。結果は意外なものでした。2歳になる前、つまり言葉をきちんと覚える前に、全員が死んでしまったのです。」

 

「当時、どこまで厳密な条件下で研究が行われたかわからない」としつつも、この実験結果を知ってしまうと、赤ちゃんに語りかけることの重要性を否応なしに理解せざるを得ません。当時、4歳だった長男の赤ちゃん返りにうんざりしていた私は、比較的おとなしかった次男(1歳)のことをほったらかしにしてしまいがちでした。しかしこの実験結果を読んでからは、「次男を死なせてはいけない!」と私の方から語りかけたり絵本を読んでみたりするようになりました。

 

また、270ページに紹介されている次のような実験にも衝撃を受けました。

 

「ブランダイス大学のヘルド博士らの有名な研究があります。ちょっとかわいそうですが、図2のようなメリーゴーランド装置に、2匹のネコを吊り棒でつなぎます。棒は円柱で支えられています。1匹のネコは自分の足で歩いて空間内を移動することができますが、もう一匹のネコはゴンドラに乗せられています。相手のネコの動きに応じて受動的に空間移動するわけです。2匹のネコが経験する視覚刺激は同じです。ところが、ゴンドラで育ったネコには「見え」が生じません。受動的な視覚刺激は「視覚経験」としての効果がないということです。自らの手足で積極的に環境を移動しながら得る視覚経験が「見え」を形成するのです。」

 

ここで言う「見え」とは、目で捉えた2次元情報を元に、実際の3次元の空間世界を読み解くということです。「見え」が生じないネコは、空間認識に異常を示し、物にぶつかったり、前足で上手く物にリーチできなかったりすることが分かっています。

 

我が家では、当時、4歳だった長男がよく動きまわるため、外出時には次男をベビーカーに乗せて移動することが多かったのです。ベビーカーにのった次男は、まさにゴンドラに乗ったネコ状態。次男は寝返りするのも立つのも歩くのもゆっくりでしたが、もしかしたらベビーカーや抱っこのし過ぎだったのかも?と反省。休みの日などは、長男を夫に任せ、次男をベビーカーから降ろして歩かせる特訓をするようになりました。次男はズッコケながらも少しずつ歩けるようになりましたが、やはり今でもよく転びます。もともと不器用だったのか、ベビーカーに乗せられすぎて「見え」の発達に問題が生じてしまったのかは未だ謎です。

 

 

「習い事」に関するモヤモヤがすっきり

 

長男が3歳になった頃から、周りのお友達がピアノやスイミングなど、どんどん習い事に通うようになり、「我が家も何か習わせた方が良いのだろうか?」と悶々とすることが増えました。しかし当の長男はというと、椅子にじっと座ることすらできていません。(6歳の現在でもそれは同じ…)「こんな状態で習い事には行かせられないだろう」という思いと、「小さい時期に色々な経験をさせた方が良いのではないか」という思いで、モヤモヤとしていました。

 

そんな時、「パパは脳研究者」の中に「早期教育」についてのコラムを見つけ、著者の「短絡的な不安感から我が子にあれやこれやと過剰に干渉したところで、よい結果に結びつく保証はありません。」というメッセージにぐっと心をつかまれました。

 

「パパは脳研究者」の224ページには、

 

「親の教育意欲が過剰だった場合、教育意欲が全くない親に育てられた場合よりも、子供の達成動機がむしろ低くなることが知られています。」

 

という記述があります。どの程度の干渉が「親の教育意欲が過剰」とみなされるのか、具体的な線引きはわかりませんが、我が家ではこの考え方を応用して「習い事は本人がやりたいと言うまで習わせない」というポリシーを決めました。一度ポリシーを決めると、心がすっきりして、周りの家庭に流されずに済むようになったのも良かったです。

 

長男は5歳の時、自分から「スイミングに通いたい」と言いました。そこで近所のスポーツクラブへ体験に行き、すぐに入会。しかし、数か月経過した時に中耳炎になってしまい、一旦スイミングを退会することになりました。スイミングに通っている間は、「行きたくない」と言ったことは一度もなく、とても楽しそうに通っていました。私自身、子供の頃にピアノとバレエを習っていましたが、練習が面倒で休みたいと思ったことは多々ありました。それを考えると、毎回楽しそうに通えるというのはすごいことだなと思いました。

 

現在長男は小学1年生。周りには、習い事を何もしていないお友達はほとんどいない状態ですが、本人は放課後自由に遊ぶのが一番楽しいようです。親としては、また何かやりたいと言ってくれるのを密かに待っているのですが…。

 

 

褒めれば良いというわけではない

 

子育てにおいて「子供を褒める」ことはとても良いこととされていますよね。子供を厳しく育てることが良しとされていた時代もありましたが、今は「叱らない子育て」が話題になるなど、子育てにはおおらかさや前向きな姿勢が大切にされています。

 

しかし「褒める」ことがどんな時でも前向きな効果をもたらすわけではないのだということは、この本に出会うまで知りませんでした。

 

「パパは脳研究者」の249ページには、以下のようなことが書かれています。

 

「基本的には「ほめる」に賛成なのですが、一方、ほめるというのは本当に難しいことだというのも事実です。認知的不協和があるからです。既に書いたように、よく絵を描く子どもに「上手に描けたね」「えらいね」などと声をかけるほめ方は、あまり感心しません。

 

絵を描く子は、描きたいから描いているのです。これを「内発的動機」と呼びます。ご褒美や名声などの外的理由ではなく、自分の内部から「やる気が」湧き出している状態です。内発的動機には根拠がありません。好きに理由などないのです。

 

それなのにまわりの大人は、ついついほめてしまいます。すると「絵を描くのが好き」ではなく「ほめられたいから描いている」と、自分の行動の意味が変化してしまいます。」

 

この文章を読んだ時は、とても衝撃を受けました。ほめることは良いことだと思って子育てしていたので、私自身、長男が好きな遊びを楽しそうにやっていた時はつい「上手だね」「すごいね」と声かけをしていたからです。子供が何かに熱中している時は、ほめすぎずそっと見守るという姿勢も大事なんだなと痛感しました。

 

 

読書を通じて子育てを振り返る

 

「パパは脳研究者」は、今0歳~4歳の子供を育てているパパやママにとって、子供の発育について知識を深め、子育てのヒントとなる情報がたくさん掲載されています。そして、子供が成長してからも何度も手に取って読み返したい一冊です。

 

私が「パパは脳研究者」を最初に手に取ったのは、長男が4歳の頃。当時、この本に書かれている「マシュマロテスト」(子供の忍耐力に関するテスト)は、長男には無理難題に思えました。しかし、長男が6歳になった現在、改めてこの本を読んでみたところ、「マシュマロテスト」はそこまで難しいテストには思えません。今の長男ならなんなく合格することができそうだと感じました。たった2年ですが、子供は驚くほどの速さで成長するのだと改めて実感しました。

 

本を読み返しながら、当時悩んでいたことを思い出したり、子供の成長を振り返ったり、育児本には時間を経て発見できる新たな楽しみ方もあります。

 

 

 

 

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